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高橋努さん(山名隆行役)

 台本を読んで、事件のあまりの深刻さに顔が曇ってしまいました。幼い子供を誘拐するだけでなく、さらに…、という内容だったので。

 山名は大変な事件を起こしたにも関わらず、思考がとても短絡的で、ことの重大性を分かっていない気がします。最終的に怒りの矛先を子供にぶつけてしまうという展開は心が晴れませんでしたが、実際、罪を犯してしまう人の中には、こういう行動パターンもあり得ると思ったんです。山名は何とか大金を手に入れようとして、警察をあざ笑うかのようなことをしていたわけで、精神的にも興奮状態に近かったはず。人ってそういうとき、冷静に考えればそれだけはしてはいけないということを、あっさりしてしまうこともあるだろうな、と。そうじゃないと、世間を騒がすほどの大事件なんて起こせないでしょうから。

 実は、これまで映像作品で悪役、犯人役を演じる機会はそうありませんでした。だから今回のような役はまだ試行錯誤な部分があります。山名を演じる上では最初、決まった仕事にもつかないでよどんだ日々を淡々と生きている雰囲気を出せれば、と思いました。変に強面にしたり、行動を粗雑にしたりすると、途端に山名が安っぽく見えてしまう危険があると思ったんです。

 山名とともに行動をする梶役の鶴田(亮介)くんは、いま名古屋で頑張っているそうですね。空き時間に、これからの目標を聞きました。僕からは『地道に頑張って』としか言えませんが、まずはそこから始めるしかないんですよ。僕自身がそうでしたから。それで、20代半ばで蜷川幸雄というあまりに偉大な才能を持つ人に出会い、蜷川さんの舞台に出させていただけるようになり、その後、まだまだ無名だった僕を三池(崇史)監督が映画『クローズZERO』シリーズでメインキャストのひとりに使っていただき、俳優としての道が開けたので。

 復讐という言葉は当てはまりませんが、20代の頃は社会全体に対して、『なにくそ!』『いまに見ていろ!』という気持ちを持っていました、それも強烈に。よく言えば、反骨精神。その塊でした(笑)。当時ぐらいから“若手イケメン俳優ブーム”というのが起きて、『俺なんて、出る幕がないじゃないか』と焦るばかりで。その中で、自分を活かす術を必死に考え、がむしゃらにやるしかなかったんです。だから“復讐”とは違いますけど、人間、多少はハングリー精神を持っていたほうがいい気がします。自分を向上させていくためにも。