インタビュー

「復讐の是非」というテーマについて、谷原さんはどう捉えていますか?
 番組ポスターにも『正義に罪はないのか?』と書かれていますが、同じ事件をきっかけにしながら、鏑木と武藤はまったく別の道を歩みます。復讐に囚われていく鏑木の行動について、いろいろ意見はあると思います。でも、『自分の最愛の人を予期せぬ形で失ってしまったら』と考えたとき、無くしたものを取り戻すにはどうすればいいのか。それを計る傍らに、バランスを取るものとして、殺した者の命、というものもあるのかもしれない。極刑に至らなかった場合、『それならいっそ自分の手で…』と鏑木のように思う人がいてもおかしくないだろうし、そう思ってしまったからこそ、警察を離れた武藤の気持ちも分かります。
何を以て正義とするのか。本当に難しいと思います。
 立場によって“正義”って違うでしょうしね。武藤と鏑木が道を分かつのは、それぞれの正義が違っていたからじゃないでしょうか。武藤は法治国家で生きてきて、警察官という立場である以上、最愛の妹を失ったとは言え、極端な行動に出ることは出来なかった。しかし鏑木は武藤と同じ立場でありながらどうしても許せなくて…、の末の行動だと思います。

葛藤や苦悩を抱えながらも、鏑木がなぜ警察を辞めないのか。そこにはどんな理由があると思いますか?
 自分の考えを行動に移す上で、警察の情報が利用できる面はあるでしょうが、鏑木は法の番人と冷静な判断も出来ます。ただ武藤の妹であり、自分の婚約者だった小百合のことや同じような事件のこととなると、極端な行動に出てしまうんですよね。
鏑木の“闇”はやがて、一線を越えた復讐へと繋がります。とても表裏が激しい役ですね?
 僕は完全に健康体の人がいないのと同じで、精神的にも完全に健全な人っていないと思っています。誰にでも心に闇はあるし、僕にだってもちろんあると思いますよ。ただ鏑木の行動に関して僕は、純粋に愛した人を失った果ての行動だと捉えています。

今はとかく、どんな行動にも理由付けがされ、事細かに病気分けもできますが…。
 人って、『それは〇〇です』と言われると、その言葉に縛られてしまうところがありませんか?僕はそれってあまり良くない気がしています。今回のドラマと比較することじゃありませんが、春になると花粉症で苦労している方も多いですし、僕も多少反応します。でも、自分が花粉症だと思い病院に行き、『花粉症です』と診断され、薬を飲み始めた時点で、『花粉症だから薬を飲まないと落ち着かない!』になるのが嫌で。『春ってなんだかくしゃみが出るよね』ぐらいに思っておけばいいのかな、と自分に言い聞かせています(笑)。
谷原さんは鏑木がなぜ、一線を越えた復讐に囚われていくのだと思いますか?
 まだ鏑木の心情をしっかり表現していないので、正直自分の中で消化しきれていないのですが…。鏑木たちを襲った悲劇って、1年前なんですよ。それくらいの期間って、いろいろなことが起きて、それを煩悶して、行動を移すには短い気がするんです。それだけ短期間で動いたのは、鏑木自身癒えない傷を何らかの方法で埋めたいと思いながら、小百合の事件の犯人は自殺していますから、自分で鉄槌を下すことはできません。それなら、と別の行動に出たのかな、と今のところは思っています。

谷原さんが演じる鏑木だけでなく、武藤も環も決して演じることが単純ではないと思います。谷原さんが一番理解できるのは誰の心情ですか?
 興味深いのは武藤と鏑木の気持ちですね。二人は表裏一体なところがあるので。もし鏑木が失ったのが妹で、武藤が失ったのが婚約者だったら、武藤が鏑木のようになってしまう場合もあるのではないかな、と。反対に、そうはならないかもしれませんし。
本作のテーマはとても重いものですが、演じ手として思うことはありますか?
 今回は、渡部(篤郎)さんが演じる環さんの存在に一視聴者としてもとても注目しています。鏑木の裏の行動ってあくまで“私”なんですが、環さんは警察の裏処理と言いつつ、上層部に繋がっているようなので。それがどう着地するのか。そこでこの作品が掲げる『正義は悪か否か』というテーマが明確になると思っています。

改めて、視聴者の方にこの作品の見どころをお聞かせください。
 Season1の武藤は時間が1年前から止まったままでしょう。そこから妹を失った兄としてだけでなく、夫であり、父親でもある彼が葛藤を抱えながら一歩一歩前に進み、多少なりとも光明が差す物語になると思います。そこで鏑木はアクセントのように、武藤にとって温かな存在として寄り添えたら。Season2は逆に、鏑木の悲しみやそれまで見せなかった顔が描かれます。それが視聴者の皆さんにとって現実離れしたものでなく、誰の人生にも起こりうる“アナザーストーリー”になるよう説得力のある演技をしたいですね。
段々に明らかになる鏑木の狂気を谷原さんがどう演じるのか楽しみです。
 これまでは、そういう状況に追い込まれても、何とか武藤のように踏みとどまろうとする役のほうが多かったので、今回はどんな演技ができるのか、自分でも楽しみにしています。実は半年以上、お芝居の現場から離れていたので、自分の中に溜まっている『演技がしたい』という思いが鏑木に反映すると思うんです。それも楽しみですね。久しぶりの現場が東海テレビ×WOWOWの共同製作ドラマというのもうれしくて。他の共同製作作品をうらやましい気持ちで見ていましたから(笑)。

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